半島を出よ
たった9人の北朝鮮の武装ゲリラが福岡ドームを占拠したら、、そんな奇抜なアイディアにこの物語は現実をシミュレートする。
そのディティールは緻密でリアリティに満ちている。しかし村上龍は「日本国がウロタエる」だけの、ただそのリアリティだけを追及する程度の作家ではない。『昭和歌謡大全集』で生き残ったイシハラをはじめ、社会非適格者である者(多くは少年)たちが、偏向した知識・傑出した感性を用いて無謀にも熟練された兵士相手に立ち向かう姿を希望を込めて描く。
作中、記者や医師からアナウンサーや市職員、更には驚いた事に北朝鮮の兵士まで、あらゆる立場の人間の対応を彼等のバックグラウンドを下敷きに描きながら、感覚的に我々読者に「平和というモラトリアムの中で生きている」事を実感させてくれる。
そして後半、第11章へ突入した時、村上龍が描きたかった総てがまるで汚物のように吐き出される。この章の為にこの小説は書かれたものだとすら思う。この時代を生き抜く、そのヒントがそこにある。
作中の言葉を借りるなら、この本を読むか否か「それはお前の自由だ。」
この作品はフィクションだが、これを読む貴方の心のドキュメントを常に感じて欲しい一作。
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